器質性EDとは

器質性ED(Erectile Dysfunction)は、主に血管や神経、ホルモンなど身体的な要因によって引き起こされる勃起不全を指します。通常、性的刺激を受けると脳が反応し、陰茎に向けて信号を送り、陰茎海綿体に血液が流れ込むことで勃起が起こります。しかし、この仕組みのいずれかに異常が生じると、性欲があっても十分な勃起が得られない、または維持できない状態となります。
心理的なストレスや緊張などが原因となる「心因性ED」と異なり、器質性EDは身体の構造や機能の変化が根本原因であるため、生活習慣病や加齢に伴う変化、外科的手術後の影響など、改善には医学的なアプローチが必要になるケースが多いのが特徴です。
器質性EDは年齢とともに発症率が高まりますが、若年層でも糖尿病や高血圧、喫煙習慣などがある場合には発症する可能性があります。男性としての自信やパートナーとの関係性にも影響を与えるため、放置せず正しい理解と対策が重要です。
EDの基礎知識

EDとは「満足な性行為を行うために十分な勃起が得られない、または維持できない状態」を指します。医学的には、性交時に必要な硬さを持った勃起が得られない、または途中で維持できず中断してしまう場合も含まれます。
一時的な疲労や睡眠不足などで勃起が弱まることもありますが、これが頻繁に起こる、または数ヶ月以上続く場合はEDの可能性が高まります。日本国内でも、40歳以上の男性の約半数が何らかの形でEDを経験しているとされ、決して珍しい症状ではありません。
EDは心因性、器質性、そして両者が混在する混合性EDに分類されます。器質性EDは主に身体的な障害が原因ですが、症状が続くことで心理的ストレスが加わり、心因性の要素が二次的に重なる場合も少なくありません。
早漏・遅漏との違い
器質性EDと混同されやすいのが、早漏や遅漏といった射精障害です。
早漏は性的刺激に対して過敏に反応し、意図せず短時間で射精に至ってしまう状態です。遅漏は逆に射精までに時間がかかりすぎる、または射精できない状態を指します。これらは勃起の有無や硬さとは直接関係がなく、性行為の満足度や持続時間に関わる別の性機能障害です。
ただし、EDと射精障害が併発するケースもあり、例えば勃起の維持が不十分なまま性行為を行い、結果として射精が早まる、または困難になる場合があります。そのため症状を正しく把握し、原因を切り分けることが治療の第一歩となります。
インポテンツとの違い
「インポテンツ」という言葉は、かつて性的不能全般を表す用語として使われていました。しかし医学的には非常に曖昧な定義であり、現在の医療現場ではほとんど使用されません。その代わりに、勃起機能に特化した用語としてED(Erectile Dysfunction)が一般化しています。
インポテンツには性欲の欠如、射精不能など広範囲の症状が含まれていましたが、EDはあくまで「勃起が十分に得られない、または維持できない」状態に限定されます。
言葉の定義が整理されたことで、診断や治療方針がより明確になりました。
器質性EDの概要と特徴
器質性EDは、血管障害、神経障害、ホルモン異常など、体の物理的・生理的な問題が原因となる勃起不全です。心理的要因によるEDに比べて自然回復が難しく、放置すると進行する傾向があります。
例えば、陰茎への血流が不十分になる血管性EDは、動脈硬化や高血圧、糖尿病など生活習慣病と密接に関係しています。また、脊髄損傷や骨盤手術後の神経損傷によって勃起の信号が届かなくなる神経性ED、男性ホルモン(テストステロン)の低下による内分泌性EDなどがあります。
器質性EDの主な症状

器質性EDの症状は大きく分けて以下のような特徴があります。
勃起が起こらない
性的刺激を受けても勃起反応が得られず、性行為が開始できない。
勃起の硬さが不十分
勃起はするが挿入に必要な硬さを保てないため、満足な性行為が難しい。
中折れ(途中で勃起が失われる)
性行為中に勃起が弱まり、最後まで続けられない。
朝立ちが減少または消失
健康な男性は睡眠中や朝方に自然勃起が起こりますが、器質性EDではこれが減るかなくなります。
勃起の持続時間が短い
挿入後すぐに勃起が弱まり、行為の継続が困難になる。
これらの症状が続く場合、単なる疲労や一時的な体調不良ではなく、器質的な原因が関与している可能性が高いといえます。
症状が与える影響
器質性EDは単に性行為ができなくなるだけでなく、男性としての自信や自己評価の低下を招き、パートナーとの関係にも影響を与えます。性の満足度が低下することで、コミュニケーション不足や心理的距離が生まれ、関係性の悪化につながることもあります。
また、EDは心血管疾患など重大な病気のサインである場合もあります。例えば、動脈硬化による血流障害は陰茎だけでなく心臓や脳の血管にも影響を及ぼすため、放置すると心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まります。
器質性EDの主な原因

器質性EDは、体の機能や構造に関する障害が直接的な原因となります。その中でも代表的なものが「血管障害」「神経障害」「内分泌異常」の3つです。多くの場合、これらが単独または複合的に関与して症状を引き起こします。
血管障害
最も多い原因は血管性EDです。勃起には陰茎海綿体へ大量の血液を送り込み、その状態を維持する必要があります。しかし、動脈硬化などで血管が硬く狭くなると血流が不足し、十分な勃起が得られません。
動脈硬化の主なリスク要因には、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症、肥満、喫煙、運動不足などがあります。特に糖尿病は血管だけでなく神経にもダメージを与えるため、ED発症リスクが極めて高いとされています。糖尿病患者の約半数以上が何らかの勃起障害を抱えているとの報告もあります。
神経障害
勃起は脳や脊髄からの神経信号が陰茎に伝わることで起こります。この神経伝達経路に障害があると、性的刺激を受けても勃起が起きにくくなります。原因としては、脊髄損傷、骨盤内手術(前立腺がんや膀胱がんの手術など)による神経損傷、糖尿病による末梢神経障害、多発性硬化症などが挙げられます。
神経障害は一度損傷すると自然回復が難しいため、早期発見とリハビリ、必要に応じた治療薬の使用が重要になります。
内分泌(ホルモン)異常
男性ホルモンであるテストステロンは、性欲の維持や勃起機能の安定に不可欠です。加齢とともに分泌量は減少し、性欲低下、勃起力の低下、疲労感の増加などを引き起こします。これを「LOH症候群(加齢性男性性腺機能低下症)」と呼びます。
また、肥満や過度なストレス、睡眠不足もホルモン分泌のバランスを崩す要因となります。内分泌異常は血液検査で確認でき、適切な補充療法で改善できる場合があります。
器質性EDの治療方法
器質性EDの治療は、原因や症状の程度に応じて選択されます。主な治療法は以下の通りです。
PDE5阻害薬(ED治療薬)
バイアグラ(シルデナフィル)、レビトラ(バルデナフィル)、シアリス(タダラフィル)が代表的なPDE5阻害薬です。これらは陰茎海綿体内の血管を拡張し、血流を改善することで勃起を助けます。即効性や効果の持続時間、食事の影響などが薬ごとに異なるため、ライフスタイルや症状に合わせた選択が必要です。
PDE5阻害薬は7〜8割の患者に有効とされますが、心臓疾患などで硝酸薬を服用している人は併用できません。また、効果が得られない場合は服用方法やタイミングの見直しが有効なこともあります。
テストステロン補充療法
男性ホルモンの分泌低下がEDの原因である場合に行われます。注射、経皮吸収ジェル、経口薬などの方法があり、性欲や勃起力の改善、活力の回復が期待できます。ただし、前立腺疾患のある方は注意が必要です。
ICI治療(陰茎海綿体注射)
血管拡張薬を直接陰茎海綿体に注射し、強制的に勃起を引き起こします。内服薬が効かない場合や服用できない患者に適しています。注射後5〜10分ほどで勃起が始まり、効果は数時間持続します。ただし、日本では未承認治療であるため、実施する場合は専門医の指導が必須です。
器質性EDの予防方法

器質性EDは生活習慣の改善によって予防や進行抑制が可能です。
定期的な運動
有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)は血流を改善し、陰茎への血液供給を促進します。筋トレ、とくに下半身の筋肉を鍛える運動も有効です。週3〜5回、1回20〜30分程度の運動を継続することが理想です。
良質な睡眠
テストステロンは睡眠中、特に深い睡眠(REM睡眠)時に分泌が活発になります。就寝・起床時間を一定に保ち、睡眠環境を整えることでホルモンバランスが安定し、勃起機能の維持につながります。
食生活の改善
動脈硬化を防ぐため、野菜、果物、魚、全粒穀物、オリーブオイルなど地中海式の食事を心がけます。動物性脂肪や糖分の過剰摂取は控えましょう。シトルリンやアルギニンを含む食品(スイカ、ナッツ類など)は血管拡張を助け、勃起力の向上に役立ちます。
飲酒・喫煙の制限
適量の飲酒は大きな問題になりませんが、過度の飲酒は神経伝達やホルモン分泌を阻害します。喫煙は動脈硬化を加速させ、EDリスクを2〜4倍に高めます。禁煙は予防だけでなく治療効果の向上にも寄与します。
ストレス管理
長期的な精神的ストレスはホルモンバランスや自律神経に悪影響を与えます。趣味や運動、リラクゼーション法(瞑想や深呼吸など)を取り入れ、心身を整えることが大切です。
まとめ
器質性EDは年齢とともに増加する傾向がありますが、生活習慣病や外傷、ホルモン異常など具体的な原因が存在するため、早期に原因を突き止めて対処することで改善の可能性は十分にあります。
「最近勃起が弱くなった」「朝立ちが減った」などの変化を感じたら、恥ずかしさから放置せず、まずは医療機関で相談しましょう。EDは性生活だけでなく、将来の健康リスクを示すサインでもあります。適切な治療と生活習慣の見直しによって、多くの男性が自信と活力を取り戻しています。